改修工事の現場から 第7回

 立秋も過ぎ、暦の上では秋ですが、残暑は厳しく1年の中で最も気温の高い日が続いています。一方、私の家は某テレビ番組「〇ツンと一軒家」に出てくるような山奥にありますので、朝晩は少し肌寒い日も増えてきました。風の流れや空模様がそれなりに秋の気配を感じさせます。秋で思い出しましたが、鳥取県の名産品としてスイカの次は梨のシーズンがやってきます。実は当館の敷地内にも二十世紀梨(「にじっせいきなし」と呼ぶ。)の木が植えてあり、毎年たくさんの実を実らせてくれます。(中々おいしいので、その収穫を密かに楽しみにしているのは私だけではないはずです。)作物の多くは間もなく収穫の時期を迎えることとなりますが、重なるようにしてやってくる台風が心配されます。今年も豊年満作となることを祈ります。

〜8月の工事について〜

 建築、機械、電気、空調、内装、塗装など様々な職業の職人さんが汗をかきながら作業されています。特にお盆明けからは朝と夕方では景色が変わるほど、ものすごいスピードで作業が行われ、日々その進捗状況に驚きを隠せないほどです。今回はそんな日々景色の変わる梨花ホール内から「客席側の舞台吊物機構改修」と「客席内のカーペットの張替え」の2つをピックアップしてお伝えします。

◇「客席側の舞台吊物機構改修」
 前回の「改修工事の現場から」では、ライトブリッジという舞台側の吊物機構改修についてお伝えしましたが、その後作業は順調に進み、8月上旬からは客席側へと作業が移っていきました。客席側は「可動プロセニアム」1基、3階客席の天井部分にあたる「可動客席天井」3基が対象となっており、舞台側と同様に昇降マシンや滑車・ワイヤーなどの交換作業が行われています。

〈梨花ホール断面図:舞台吊物機構 可動客席天井・可動プロセニアム〉

〈可動プロセニアム〉(1基 赤枠部分
 客席から見て舞台と客席を区切るような構造物(絵画で言う額縁部分)を「プロセニアム・アーチ」と呼びます。そもそも、このプロセニアムの考え方(舞台で上演される作品を絵画として捉えたときにそれに相応しい額縁が必要である)は海外からやってきたもので、ヨーロッパを代表するような古い劇場などは物凄い重厚感を醸し出しているものが多くあります。反対に日本に古くから伝わる古典芸能である歌舞伎や人形浄瑠璃などは、当時の芝居小屋の舞台形状や座席の配置、演目の種類やその演出方法などから、横長を基本とした特徴的な舞台が多く作られてきました。梨花ホールでは、そのような多種多様な芸術作品やその利用目的に対応するために、この額縁の高さを14mから10mの範囲で可変させることができるという珍しい機構を有しています。その昇降による舞台の見え方を下の写真で見比べてみてください。

    〈プロセニアム通常 高さ14m〉      〈プロセニアム降下 高さ10m〉
Bプロセ降下 

〈可動客席天井〉(3基 青枠部分
 続いて客席の後方を見ていきます。梨花ホールでは上演される演目の種類やその収容人数などに合わせて、3階客席の天井を降下させることができるという、日本でも類を見ないほど珍しい「可動客席天井」という機構が存在します。この可動客席天井はホール内の見た目の変化だけでなく、ホール内の容積を変化させることで建築的に音の響き方を変えることができるなど、これもまた様々な利用形態がある梨花ホールにとって、非常に大切な役割を担っています。

       〈客席天井通常〉             〈客席天井降下〉
D可動客席天井降下 

 この可動客席天井の昇降運転は安全作業の徹底や設置に必要な時間を十分に確保するために原則、舞台スタッフ以外誰もいない状態で行うこととしています。そんな理由もあり、この特殊な機構の存在自体を多くの方はご存じないと思います。1基あたり約7t〜約17tという重量級のこの天井。改修作業中の裏側を実際に覗いてみると、チェーンブロックという吊り器具で天井裏の強固な躯体に仮吊り固定され、1台ずつ入念に安全確認がされた後、1本ずつワイヤーが交換されているところでした。普段あまり見る事の無い程に太く強靭そうなワイヤーはその取り扱いも難しそうです。しかし、何回見ても天井が動いて降りてくる様は圧巻です。操作する時はもいつも緊張します。

    〈可動客席天井の裏側 仮吊り固定〉      〈昇降マシンの入替作業〉
Fマシン搬出 

◇「客席内のカーペット張替え」
 天井ばかり見上げて首が痛くなってきたので、今度は足元に目線を移していきます。2月中旬の工事開始以来、客席内の天井やホワイエを対象として行われてきた特定天井耐震対策工事も終盤に差し掛かり、高くそびえ立っていた棚足場は7月末に完全に撤去されました。この期間を利用した工事や修繕は次々と段取りよく計画されていて、息つく間もありません。待っていましたと言わんばかりに「カーペットの張替え作業」がスタートです。今回は利用頻度の高い1階客席のうち、色あせやほつれなど劣化の激しい部分を対象として実施されるものです。

     〈ほつれやシワなどの劣化状況〉     〈色あせ(オーケストラピット※1)〉
H張替前 オケピ部分 

 作業はまず古いカーペットを剥がす作業から始まり、全て撤去されると無機質なモルタルの床が現れました。糊やゴミなどが綺麗に清掃された後、足への衝撃緩和や防音の為に大切な下地クッション材(アンダーレイ)が敷き詰められ、最後に、いつもの朱色のカーペットが張られて完成という流れです。簡単に書きましたが、現場は8月中旬です。何もせずにじっとしていても汗が出るほどです。職人さん、本当にお疲れ様です。このカーペットの張替え作業が終わると、次はいよいよオーバーホールに出ていた客席椅子の復帰です。工期も残り約1か月。ここまで、様々な職業の職人さんの様々な技を見てきました。いつも感心するばかりです。ホールの中は熱気に満ち溢れ、職人さんの額には今日も汗が光っています。

     〈既存カーペット 撤去〉         〈カーペット張替え作業中〉
カーペット張替え作業中 


(※1)「オーケストラピット」
 客席前方にある昇降式の床のことで、オペラやミュージカル、バレエなどの演目を上演する際に客席よりも低い位置に設置し、オーケストラが演奏を行う場所です。梨花ホールの舞台床機構の中でも最大級で、その横幅約20m、奥行き約5mもあります。通常はこのオーケストラピットの上に客席ワゴンが乗っていて、お客さんが座るための客席としての役割を担っています。

〈梨花ホール断面図 オーケストラピット 赤枠部分

〜おわりに〜

 冒頭でお話しした当館、敷地内の梨の木です。その存在。皆さんご存じでしたか?

〈ゴールド二十世紀梨 とりぎん文化会館 日赤側入り口付近より〉

〜次回に続く〜
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