改修工事の現場から 第5回

 6月も終わりに近づいてきました。現在、梅雨真っ只中の中国地方はジメジメとした湿度の高い日が続いています。仕事場の私の作業用パソコンの横には、現場で着用するヘルメットの他に、最近では不快な湿度を和らげるためのアイスコーヒーが常備されています。今後の天気予報を見てみても、なんだかはっきりとしない天気が続くようで、もうしばらくはこの梅雨らしさを満喫することになりそうです。

〜6月の工事について〜

 今年の夏は暑くなるとメディアが報じていました。日によっては40度を超える日もあるとかないとか…。そんな夏に備えて当館の工事現場でも熱中症対策が強化されはじめました。コロナ禍で大変ですが、皆さんも無理をせず定期的な休憩と十分な水分補給、適切なエアコンの使用などを心掛け熱中症の予防に努めましょう。
 さて、今回は来月7月のリニューアルオープンに向けて現在、急ピッチで作業が進められている小ホールの「舞台音響設備改修」と「客席照明のLED化」についてお伝えします。

◇小ホール「舞台音響設備改修」
 前回の改修から約12年。その間、地域の様々な催しやイベントを陰で支え続けてくれた舞台音響設備は、現在、経年劣化の進んでいる機器を中心とした更新作業が行われています。ホールの規模としては収容定員500名と小さなホールですが、「ミキサー」や「パワーアンプ」など、音響システムを構成する基幹的な機器の入替えだけではなく、デジタル技術の駆使や機器間の伝送・通信方法など、目に見えない多くの部分が更新されています。不具合の少ない「安定動作」とさらに「良い音(※1)」を追求し計画され、現在その実現に向かって作業が進んでいます。

(※1)「良い音」:良い音の感じ方は人それぞれで異なりますが、ここでの「良い音」は雑音が少なく音として歪や濁りが無いという意味。

           〈一般的な舞台音響設備のシステム構成図〉

 一般的な舞台音響設備は上の図のような機器で構成されていますが、技術的にデジタル化やネットワーク化が幾ら進んでも、実際の機器を繋いでいる主要な回線は、まだまだ物理的なケーブルです。無線化できる箇所もありますが、安定動作の実現にはやはり有線に勝るものはありません。実はホールの中はこのようなケーブルやそれらが通る配管が、音響だけに限らず舞台機構、照明、映像、電気、空調、上下水道などたくさんの種類があり、それはまさに一般的な社会インフラのようです。現場での作業は一見すると地味ですが、緻密な設計に始まり、細やかな配線作業の他、その場所に合わせた配管の曲げ加工などはまさに職人技!只々、見ているだけの私はいつも脱帽です。(現場でヘルメットは脱いでいません。)

※「ミキサー」:ミキシングコンソール。日本語では音響調整卓と呼ばれ、収音に使用するマイクや録音・再生機器、スピーカを駆動するために必要なパワーアンプ等、音響システムを構成する殆どの機器類がこのミキサーに接続されています。音響技術者はこのミキサーを操作し、リハーサル、本番等それぞれで求められる音量や音質などの細かな調整作業を行うことで舞台芸術を下支えしています。

※「パワーアンプ」:ミキサーで音量や音質が調整された音声信号を電気的により大きくし、スピーカへ伝達します。スピーカはその電気信号を受けて振動することで空気の振動(音)となり空気中を伝播します。

     〈音響設備の配線ダクト〉            〈複雑な配線〉
B効果室配線 

◇小ホール「客席照明のLED化」
 夜になると日が暮れて暗くなる。それは自然の法則です。古今東西変わりません。舞台照明も元々は太陽や月など自然光や火などを巧みに使い、長い年月を経て現在の電気を使用したものへと変遷していきました。その後、光と影のバランスやその角度を利用するという舞台照明の明りづくりの原点を変えることなく、消費電力が少なく高寿命なLED機器が開発されました。家庭や企業などでの一般的な用途で普及した後、繊細な色合いの表現や細やかな調光(明暗の調整)が可能となり、今日では舞台照明として欠かすことの出来ない存在となっています。
 今回の改修では客席側の固定照明設備である「客電」がLED化されますが、この客電は単に客席を明るく照らすことだけを目的としているのではなく、実は演出にも使われる大切な舞台照明の一つです。

           〈小ホールの客席照明「客電」全体写真〉

 例えば、クラシックコンサートなどでは開演の時にゆっくりと「客電」を暗くしていくことで、場内の雰囲気やお客さんの気持ちなどを自然な状態で音楽の世界へ誘うことができます。また、ロックコンサートなどでは、開演と同時に「バン!」と一斉に「客電」を切ることで、観客の盛り上がりを一気に最高潮にし、非現実への扉を開く開演の演出として使うこともあります。

        〈客 電〉               〈LED器具光源部〉
E客席LED器具 

 上の写真のように今回導入されるLED機器は器具の大きさや形は以前のものとほとんど代り映えしませんが、中身は大きく進化しています。代表的な特徴を幾つか挙げてみると…

・少ない消費電力で従来の器具よりも明るい
・電球から熱が出にくいので、部屋が暑くならない(空調コストが削減できる)
・長寿命なので球替えの頻度が少ない(購入や廃棄コストが削減できる)
・利用形態により暖色・寒色などの色合いを変えることができる(薄暗くしても見やすい等)


〜おわりに〜

 舞台の世界では緞帳を境として客席側を「現実」、舞台側を「非現実」として捉えます。私たち舞台技術者はその「現実と非現実の間」という空間において、ある種の一定の興奮の中、冷静さを保ちながら仕事をしています。また、一般のお客様の目に直接触れることのないその空間には、今回ご紹介したような音響や照明などの専用設備があり、同じように様々な演出を実現するために動き続けています。観客と舞台を繋ぐそんな裏方も皆、来月の小ホールリニューアルオープンを心待ちにすると共に、また様々な催しで多くのお客様にご利用いただき、それぞれが持つ役割で舞台芸術を支え創造し発信できる事を楽しみにしています。



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